3 追撃-knight-

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『つまりさ、お前もうこれから先二度と、姫さんや律先輩とタメで話すな。 これから先、ずっと敬語を使うんだ。 これでもう、お前と姫さんとの間には絶対的な距離ができる』 『……棗は泣くな、絶対』 俺の予想通り、それから二週間ほどは棗はそれに反発していた。 敬語にして二日間ほどは、目を腫らしていた。 多分、夜に律にでも泣きついていたんだろう。 9月1日は、日曜日だったけれど、俺は棗の電話にはでなかったから。 『姫さんは泣くかもしれないけど、それは本来当然のことなんだよ。 正当な理由は存在する』 『……』 『快。 お前もう気付いたんだろ? 好きなままじゃいられない、って。 このままじゃ、いられないんだよ』 『……』 『お前は、忘れる準備をしなくちゃいけない。 時間はかかってもいい。 現実を見ろ、快。 お前は……』 俺は敬語を棗に泣きつかれてもやめなかった。 それが俺の小さくて、それでも初めての棗に対する本気の抵抗だった。 俺は、抵抗しなくてはいけなかった。 それにこそ、正当な理由はあった。 『快。 お前は、失恋したんだよ』 俺は一か月、あの言葉を貰ってから一か月。 ただずっと、考えていた。 棗との関わり方をずっと。 失恋の、方法を。 恋を失う方法を。 それでも見つけたのは、たった一つ。 どんなに考えたって、誰と比べたって、俺は、棗を、全然失うことができないということだけだった
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