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俺は、お邪魔します、と一声かけると快のお母さんの段ボールを受け取った。
「はい。
これ、どこへもっていけばいいですか?」
「ごめんなさい、すぐ近くなのに…。
あの、押し入れの傍に置いておいてくれるかしら」
「分かりました」
「そしたらすぐ二階上がっちゃって?
なっちゃんも来てくれたのよ。
カモミール持ってきてくれたの」
「ハハ、棗らしいですね」
そうなの、と嬉しそうに快のお母さんが笑う。
俺は段ボールを言われた場所に運びながら妙だな、と思った。
何度か俺が遅れて快の家に来たことはあるけれど、その時は大抵棗の声が下まで聞こえていた。
棗の声は透き通ってて、そしてハキハキしているのでよく通る声だ。
快の声が聞こえないのは、いつものことだけど、棗と快が盛り上がっていそうなのに。
ドサリ、と段ボールを置いて耳をすますけれど、やっぱり二階から物音ひとつしなかった。
「……」
ギシ、と階段を上る時、階段が少し軋む。
その音をなるべく潜ませて、俺はゆっくりと階段を上った。
……別に、快と棗が二人きりのことなんてよくあることだ。
俺と付き合う前なんかは特に。
さして、珍しいことでもないし、今更こんなに疑ったって仕方がない。
そう思うのに、階段を上れば上るほど、無音の二階が気になった。
……棗、寝てんのか?
それで快が呆れてるのかも。
その可能性が一番高いな、と思いつつ、まるで泥棒のように階段を上がる。
あの二人、俺がいないとき、どうしているんだろう。
それが気になる悪戯心みたいなものもあった。
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