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寝ている棗にキスをしたいと思ったことが、俺にはあっただろうか。
それも、髪に、なんて。
だったら思いつくことは一つだけ。
――快。
お前、棗が好きだったのか。
棗に、恋をしているのか。
それでも、俺の傍にいてくれて、ずっと笑っていてくれたのか。
あんなに、あんなに苦しそうな気持ちを抱えながらずっと……
「バカか…!俺は…!」
棗に協力していたんだから、快もきっと俺たちが付き合うことを望んでいるんだろう、なんてどうして思った。
少し考えれば分かる。
快なら、棗に頼まれれば断らないだろう。
棗の幸せを優先して協力したんだ。
自分なんておいて、棗のために。
それでも、それでも快はきっと自分の感情と戦って、その挙句にキスをしていたはずだ。
現に棗は俺と付き合ってから快の家にはいかなくなった。
快にダメだと言われたらしい。
それを破ったのは棗だ。
ずっと、快は俺と棗のために我慢していた。
それをさせたのは……
「……俺だ」
膝を抱えてその場で頭を膝に押し付ける。
あの日の告白の決断をした己のことだけを思い出して悔やんだ。
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