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まだ見慣れない校舎の二階の廊下を朔と歩く。
多分、ずっと探していたんだろう。
ふと窓の向こうに視線を止めると、一瞬、艶やかな髪がなびくのが見えたと同時、沢山の喧噪に紛れて涼やかな声が聞こえた。
「――ごめんなさい」
きっと、誰も聞き取れていないだろう。
俺、以外は。
足が自然に止まる。
「どしたー?」
と呑気な声で朔が声をかけてきたが、それには答えなかった。
ゆっくりと窓の下を覗く。
――見つけた。
いた。
一年ぶりだ。
「……」
髪は、伸びていた。
あの日、最後にあった日、彼女は長かった髪をバッサリと切っていた。
もう、その痛々しいほど短かった髪は面影も残していない。
そのまま、あいつのことも忘れていてしまえばいいのに。
髪と一緒に記憶すらなくしてしまえばいいのに。
「なんだよ、快。
窓の下なんか覗いてー」
はーっと面倒そうにため息をついて朔が気だるそうに俺と一緒に窓の下を覗く。
そして眉間にぐっと皺をよせた。
「……んだ、姫先輩じゃねーの」
「姫とか、言うな」
「だって姫だろ」
言っている言葉は敬称のようだけど、言い方は嘲笑うような、呆れているようなそんな口調だ。
昔から朔は、棗が嫌いだった。
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