1.準備ーknightー

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「ありがとう、朔。 ごめんな」 「……」 朔は俺の言葉に頷くでもなく、ただ悲しそうな顔をしただけだった。 苦虫を噛み潰したような顔をして、拳を握る力だけが強くなる。 「…俺に謝る必要なんか、ねぇよ」 「……」 「ただ、お前を見てるのが、苦しいだけ。 それに謝ってるなら、早く姫さんなんか忘れちまえ」 「……ハハ」 乾いた笑いを返すと、朔は「本気だぞ」と囁くような声で告げた。 「辛い恋愛なんて引きずってたって何の得もない。 だったら、忘れろ、早く。 手遅れになる前に」 「……分かったよ。 努力する」 「……絶対だぞ」 「はいはい」 頷きながら、どこか希望を持てない自分がいた。 大丈夫、きっといつか忘れられる。 そう思う反面、そんなことを思う自分を嘲笑っている自分がいる。 もう、逃げられない。 そんな気がして、俺は小道を照らす月を見上げた。 三日月よりも少し太った中途半端な月が俺たちを見下ろしていた。
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