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「ありがとう、朔。
ごめんな」
「……」
朔は俺の言葉に頷くでもなく、ただ悲しそうな顔をしただけだった。
苦虫を噛み潰したような顔をして、拳を握る力だけが強くなる。
「…俺に謝る必要なんか、ねぇよ」
「……」
「ただ、お前を見てるのが、苦しいだけ。
それに謝ってるなら、早く姫さんなんか忘れちまえ」
「……ハハ」
乾いた笑いを返すと、朔は「本気だぞ」と囁くような声で告げた。
「辛い恋愛なんて引きずってたって何の得もない。
だったら、忘れろ、早く。
手遅れになる前に」
「……分かったよ。
努力する」
「……絶対だぞ」
「はいはい」
頷きながら、どこか希望を持てない自分がいた。
大丈夫、きっといつか忘れられる。
そう思う反面、そんなことを思う自分を嘲笑っている自分がいる。
もう、逃げられない。
そんな気がして、俺は小道を照らす月を見上げた。
三日月よりも少し太った中途半端な月が俺たちを見下ろしていた。
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