873人が本棚に入れています
本棚に追加
/577ページ
『快』という男に初めて会った時、なんてカッコつけている奴なのだろうと思った。
すげぇ綺麗な顔して、でも誰にも媚びないトラのような男だった。
口数は少ない。
不愛想で、笑いもしない。
俺とは真逆で、それはきっとカッコつけた男だからだ、と本気で思っていた。
でも関われば関わるほど、それは素で、そして素でカッコイイ男なんだと思った。
黙っていて、確かに表には出ない。
出ないから、気付かれないけれど、いつも人を気遣い、庇い、守りながら生きている。
だけど、俺の姉は容赦がなかった。
『快って、すごい不愛想ね。
せっかく綺麗な顔してるのに、無駄遣い!
あんたは、あれじゃダメだからね。
常に女をたてて、私たちを優先させるのよ。
男は、そうじゃなきゃ男じゃないんだから』
まるで洗脳だった。
母も、姉もうちは気が強い。
父親も、きっと最初はすげぇ美人な母親を好きになったのだろうが、性格のキツさ故に、家を出て行ってしまった。
それから、俺はただ一人、この家での男となった。
うちで女とうまくやっていくには、俺には術がなかった。
そして、その術は、骨の髄まで俺を染めて、今じゃこんな有様だ。
女は複雑だ、とか男は言うけれど、染み付いてしまえば、そうでもない。
知り尽くしてしまえば、手に取るようにわかる。
そして思った以上に単純なのだ。
上辺だけの姿に絆される。
最初のコメントを投稿しよう!