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――棗。
花城棗は、俺の住むマンションの向かいに住んでいる一人娘だ。
幼稚園が一緒だった、家が近かったから何かと遊んでもらった。
それだけの関係がひたすら続いて今に至っている。
棗は俺より年が一個上で、中学に行ってからは先輩になった。
昔は棗、と呼び捨てで呼んでいたし、敬語もまったく使っていなかったが、それを機に敬語で話すようになった。
棗は嫌がっているし、俺も敬語は苦手だ。
苦手だけど、でも必要なことだった。
俺は棗との間に距離が欲しかった。
――理由は、この胸の中にくすぶっている熱のせい。
早く消えてほしいと、初めて祈ったのはいつなんだろう。
もう覚えていないくらい前のことだ。
初めて会った時からきっと、俺は棗を可愛いと思っていたと思う。
もう覚えていないけれど、多分棗を可愛いと思わない男なんて存在しないと思う。
そう思えるくらい棗は美人だった。
小さい時から、くりっとした大きな目が特徴的で、肌も白かった。
そばにいて少しドキドキした、くらいはあったと思う。
でも、一体いつなのかは覚えていない。
この熱に、この欲に、耐えるようになったのはいつだったんだろう。
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