第1章

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「リアル脱出ゲーム」の商品としての謎を解く――ミステリと体験価値 〈取りあげる本〉 ・SCRAP『ふたご島からの脱出 少年は戻りたいと思った。少女は救いたいと願った。 (脱出ゲームブック)』(リットーミュージック) ・川上慎市郎、山口義宏『プラットフォームブランディング』(ソフトバンククリエイティブ) ■「推理体験の楽しさ」を提供する「リアル脱出ゲーム」から得られるもの  ミステリファンなら、推理することの楽しさを、謎が解けたときの興奮を、少なからず経験したことがあるだろう。  僕もある。  ミステリ作家もそうだ。  幼少期にエラリー・クイーンを読んで「読者への挑戦状」に挑み、自ら推理したという体験を語る人は多い。  不可解な謎に興味を抱く―深まる謎と提示される手がかりからあれこれ推理する―挑戦状により促され改めて情報を整理し、推理する―あざやかなる解答編の手つきに舌を巻く、という流れ(顧客体験フロー)の楽しさを味わえば、ミステリを偏愛するようになる。  こういう推理体験の楽しさを、非ミステリファンに対しても開拓しているエンターテインメントがある。 「リアル脱出ゲーム」だ。 『グーニーズ』にハマって幼少期に少年探偵団を組織したこともある株式会社SCRAPの加藤隆生によって開発されたリアル脱出ゲームは、"参加型謎解きゲーム"である。  参加者は現実世界のある場所に集められ、ヒントを元に集団で謎を推理し、制限時間内に脱出を試みる。  原宿、渋谷、東新宿、京都などに常設の「脱出ルーム」が用意されるほど人気を誇り、年間動員数三〇万を見込む。  リアル脱出ゲームが、ミステリシーンに与える示唆は何か。  リアル脱出ゲームは、ある意味ではミステリである。  ユーザーは謎解きを楽しむ。  謎は、手がかりを使って思考を投入すれば、解ける(難易度は高めだが、フェアだ)。  ロジカルに解けるというより"とんち"やなぞなぞ、パズルが多いが、やってみると、おもしろい。  リアル脱出ゲームが、顧客に対し独自に提供している価値は何か?  ある限定された空間で、制限時間つきで推理をするという「物語の中に入ったような」体験だ。  謎に対して頭をひねって行動していくと、少しずつ秘密が明かされる。  その楽しさを、書斎やリビングではなく劇場や球場で、自分たちが主役であるかのように集団で味わえる。
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