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謎解きに時間や空間的制限を設け、限定感/イベント性と体験価値を高めることは、小説では難しいかもしれない。
しかし、リアル脱出ゲームはゲームブックにもなっている。
二〇一三年二月に刊行された第二弾の『ふたご島からの脱出 少年は戻りたいと思った。少女は救いたいと願った。』も現状で実売は一万六〇〇〇部以上とゲームブックにしては破格の売れ行きだ(前作も同様)。スモール出版から刊行された『リアル脱出ゲーム公式過去問題集』は5刷二万五〇〇〇部。
とすれば書籍で展開するミステリにも応用できる何かがあるはずだ。
ゲームブック版の独自な提供価値は、"家でもできるリアル脱出ゲーム=家でもできる謎解き体験"だろう。
イベントに参加できない人、参加した楽しみを振り返りたい人が、自宅で推理体験を味わえる(オンラインゲーム版やTVと連動したリアル脱出ゲームTVもそういうものだ)。
SCRAPのゲームブックにあって、凡庸なミステリ小説(以下、凡ミス)が用意できていないものは何か。
顧客がお金を払ってもいいと感じ、満足度に影響がある重要な違いは何か。
■ブランド体験価値のデザイン――体験の魅力度×時間・量×一貫性
それを考えるために、川上慎一郎・山口義宏『プラットフォームブランディング』を参照してみよう。
同書は、
消費者によるブランドの評価=顧客に対して与える体験の魅力度×体験の時間・量×体験の一貫性
だと説く。
リアル脱出ゲームも「ブランド」だ。
ミステリ小説ならシリーズや作家名、レーベルがブランドにあたる。TVCMや口コミといったプロモーションによる認知から購買、消費に至るまで、買う前から使い終わって誰かと感想を共有するまでのあらゆるプロセス(顧客体験フロー)で、顧客の心理にブランドに対する印象、記憶がつくられる。
ブランドとは記憶である、と同書は言う。
ブランドに対して抱く記憶や連想の体系がポジティブなものには、顧客は喜んでお金を払う。
イメージがネガティブなもの、一貫しないもの、記憶や印象がそもそもつくられていない(購買の選択肢に入っていない)ものには払わない。
「作家買い」するときの心理を思いかえせば「ブランドとは記憶である」という主張は受け入れやすい。
この観点に立つと、リアル脱出ゲームと凡ミスの違いはクリアだ。
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