第1章

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「推理を強制するしくみ」「期待と感想の醸成」「枯れた技術の水平思考」の三つである。  顧客に対して与える体験の魅力度×体験の時間・量に関わる違いだ。  順にいこう。 ■推理を強制するしくみ――ミステリの提供価値(体験価値)とは何か 「推理を強制するしくみ」は、リアル脱出ゲームの体験の魅力度に寄与している。  参加する人間は謎解きをしたくて応募し、制限時間内にクリアすることをルール上、強制される。  これは『逆転裁判』などのデジタルゲームでも提供されている特徴だが、書籍のようなアナログなメディアでも実現したのがポイントだ。  謎が提示され、推理すると少し謎が解け、また新たな謎が出てきて推理して……というプロセスのおもしろさ。  プロットや提示される謎が複雑すぎて、謎解きパートに入るころにはどんな事件だったか憶えていない(憶えられない)凡ミスには、小出しな謎―解明の快楽が欠けている。  モバイルゲーム(スマホ向けゲーム)の隆盛を見れば自明なように、少しずつ確実に進んでいる実感が得られる娯楽、マイクロコンテンツの連なりが今日では好まれる。  謎やプロットを複雑にすれば満足度が上がる、とは限らない。  SCRAPの加藤は「謎を複雑にするのは簡単だが、脱出率を全参加者の一〇%くらいに調整するのが難しい」と言っていた。  それくらいの難易度が「また参加したい」という気持ちを沸き起こすのにちょうどいいと心得ているわけだ。  リアル脱出ゲームは「推理体験の楽しさをデザインする」という姿勢が徹底されている。  もちろん、ミステリ小説の提供価値は「推理体験の楽しさ」とは限らない。  物語として深い感動を与えることを主眼にしたミステリもある。  ほかにもたとえば松岡圭佑作品なら、キャッチコピーである「面白くて知恵がつく 人の死なないミステリ」になるだろう。  推理体験の興奮をウリにするにせよ、違う何かを提供価値として設定するにせよ、一貫した体験フローが設計されていることが顧客にとっては重要だ。  その違いが、体験の魅力度を、ブランドに対する記憶を形成する。  設計した顧客体験フローは多くの人間が満足しそうなか、興味を引くか?  がキモだ。  というわけでリアル脱出ゲームが「期待と感想の醸成」に長けている、という話に移る。
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