第1章

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 訴求すべき体験価値とは何か。  多額のマネタイズができるミステリの価値とは何か。それを考えるには、まずターゲットとなるマーケット(読者像)を定め、そのひとたちが娯楽に対して潜在的に求めているものが何で、どうすればそれを満たせるのかというバリュープロポジションを明確にする必要がある。  もちろん「推理体験の楽しさ」以外にも、いくらでも切り口はあると思う。  顧客は、小説あるいは本という「モノ」にお金を払うのではない。  作品を認知し、購買し、口コミしたりtwitterでつぶやき誰かと対話するまでの一連の「体験」全体を想像したうえで、お金を払うかを考える。  小説そのものの出来が、満足度のすべてを決めるわけではない。  買ってもらう前から勝負は始まっている。  いかに認知され、選んでもらうか。  作家は小説をつくると思い、編集者は本を編集していると考えがちだ。  だが「顧客体験をデザインする」という視点に立ってミステリという営みを捉えてはどうか。  作品の中身をつくることのみに注力しても、事前の期待感の醸成にはつながりにくい。  また、SCRAPの加藤は、ゲームが終わったあとに参加者同士が飲み屋で感想を言い合ってもらえるのが嬉しい、と言う。  謎のネタバレはせずに、しかし口コミが広がりやすくなるようなコンテンツづくり、オペレーションを徹底している。  事後の感想の醸成、という視点も「小説/本をつくる」と考えていては抜け落ちがちだ。  作品のクオリティはむろんのこと、触れる前と触れた後の顧客の行動を捉える「期待と感想の醸成」に、SCRAPは長けている。
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