壱巻

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好きな人に抱かれた。好きな人には私じゃない彼女がいた。自分はそれでもいいと思ってた。けれど、少し嬉しくて凄く悲しいキモチになった。涙が溢れて頬を伝う。止めようとしても止まらない。好きな人は、そんな私の頭を優しくそっと撫でてくれました… 柏原理奈。十八歳、高三。今年の夏、少女は処女の痛みを経験した。愛して貰えないと解っている相手に抱かれた。こんな事で、ほんの少しでも私の事を考えてくれるなら…そう思っていた。けれど、想いは自分が考えていた心の痛みをはるかに越える傷痕を残した。決して外れる事のない枷を自らの体に巻き付け、身動きの取れない動物のように、ただもがくだけだった。嫌われたくないキモチが強すぎて、好きだとも言えず、諦める事もできず… ただ、どうして私が愛してもらえないと判っている相手に、こんなにいれこんでしまったのか判らない。今までこんなに好きになった人は居なかったと言う事だけは判る。今まで想いが伝わらないと解っている相手を切る事なんかたやすくできた筈なのに。今回はそれが出来なかった。身体の痛みを感じたからではなく、自分の思い通りにならないのが悔しくてたまらなかった。想像以上の苦しみと痛み、そして悲しみ。それが自分だけに迫るのが許せなかった。そんな事を考えている間に彼は彼女の元へ去っていった。静寂な時間が流れたが、少女には時間など止まっているように感じられた。別れさせて自分の物に出来たら…そう考えた時もあった。しかしその考えは直ぐに打ち砕かれる。リスクが大きすぎる為である。もしバレたら、口も聞いてもらえないかもしれない…だったら彼の大切な人になれなくても、話が出来る方がずっとマシ…そう考え、彼を諦める事を選んだ。自分も傷付かず、彼も幸せを続けられるベストな選択…だが二度目の出会いは意外な結末が待っていた…彼女と別れて自分と付き合って欲しいと言われたのだ。少女にとっては我慢出来ないくらい嬉しい言葉だった。だが少女は少し不安になった。もしかしたら自分のせいで二人が別れる事になったのではないかと…そう思うと彼の申し入れを受ける気にはなれなかった。何度も夢みた事が現実になろうと言うのに、少女は臆病になってしまっていた。彼の申し入れを断る度に胸が潰れそうになる程痛んだ。泣きそうにもなった。それでも…彼女は受け入れなかった。
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