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「智之、そこまでにしとけ。役柄と離れたところで泣かせてどうする?」
「アオ、よく見ろよ。まだ泣かせてない」
眉を潜めたアオさんが楽しそうに笑う鴨井さんを睨む。
「どうした?今日は随分桃ちゃんに優しいな?一緒に住んでるもんだから情が沸いたのか?」
「お前のやり方は逆効果だ。この間の稽古もそうだか、今回のお前のやり方は行き過ぎてていじめにしか見えない」
「そうかな?」
「私もアオの言う通りだと思う」
聡美さんが固い表情でアオさんに加勢し始めたので、私は慌てて止めに入った。
これは私の問題であって、これ以上他人を巻き込みたくない。
「アオさん、聡美さん。私は大丈夫ですから」
「でも……」
「絶対、皆さんの演技に追い付いてみせます」
「はは、それって泣く気はないってことだよね。桃ちゃんも相当頑固だね」
鴨井さんの高笑いが響き、私は唇を噛んだ。
「いいよ。2週間の猶予をあげよう。それまでに演技として観れるものに仕上げてきたなら桃ちゃんの主張を聞き入れるよ」
「ありがとうございます」
鴨井さんはテーブルに肘をつき指を絡ませると、鋭い目付きで私を一瞥する。
「……だけど、この2週間で俺の納得いく演技が出来なかったら、今以上の地獄が待ってることは勿論覚悟の上だよね?」
「はい」
「実力もないのに強気だねー。2週間後が楽しみだよ」
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