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「…………良い映画だろ?」
「はい。……って、えぇっ?!だ、大丈夫ですか?」
号泣と言っていいくらいの涙を流すアオさんに、思わず声を上げる。
彼は私の動揺を気にすることなく、手の甲で涙を拭った。
「これを見て泣けないなんて、お前の心は砂漠並みに干上がってるな」
「わ、私だって感動しましたよ!大体、人前でそんなに号泣して恥ずかしくないんですか?!」
「訓練だよ。役者として感情を解放できるようになる為のな」
「…………」
アオさんが、どうして急に映画を見ようと言い出したのか。
……漸くその理由が解った。
「……アオさんも、私が間違ってると言いたいんですか?」
「……」
「確かに私の演技はまだまだです。だけど涙を流すことに固執したって、そんなの役者の自己満足に過ぎないです」
映画の余韻なんて何処かに吹き飛んで。
それでもアオさんは、乾ききっていない瞳で私を見つめる。
「……それに私は泣けないんじゃない。ただ、涙を流すことに拘るのが嫌なだけです」
「桃の手法が間違ってるとは言わない。だが、うちの演出は智之だ。アイツの演出を信じることができないなら、別の劇団を探した方が良い」
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