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「……あの日」
ソファーに深く凭れたアオさんがポツリと呟く。
「歓迎会の後、酔っ払ったお前をここに連れて帰ったよな?」
「……はい」
今更こんな話を蒸し返してどうするつもりなんだろう。
アオさんは私をチラリと見ると、何とも言えない微妙な表情をしながら目を逸らした。
「…………綺麗だったんだ」
「……」
「あの時、悔しいと呟いて泣いた桃を綺麗だと思った」
「なっ、何言ってるんですか?!」
「勘違いするなよ。別に桃を口説くつもりはない」
アオさんは頭を掻きむしりながら、またチラリと私を見る。
「素直に感情を露にして涙を流せる桃が羨ましいよ。俺は映画を見たり、役に入り込んで涙を流すことは出来ても、俺自身の感情を表に出せない」
――――頬が熱い。
こんな風に誉められることに慣れてない。
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