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「あの表情を舞台でも見せなきゃ勿体無いぞ」
「……やです」
「上手くなりたいんだろ?」
アオさんの口調がきつくなり、諭すように私を見つめる。
「桃に欠けてるのは、お前が躊躇い続けている部分に踏み込む勇気だ」
「そんなこと、言われなくても解って――――」
「解ってるなら、やれ」
ずっと守り続けてきた。
それが私自身を守ることだと思っていた。
けれど、頑なに守り続けることで段々身動きが取れなくなっているのに気付いたのは何時だろう。
アオさんの顔が見れなくて、早くこの時間が過ぎて欲しいと俯く。
「……お前を見てると、昔の俺を見てるみたいだ」
「……」
「桃、芝居は一人で作るものじゃない。一緒に作っていく仲間を信じることで、お前はこの重い一歩を踏み出せるんだ」
温かくて大きな彼の手が私の頭を荒っぽく撫でる。
――――予期せぬ出来事に、心臓がドクンと大きく跳ねた。
驚いて顔を上げた私に、アオさんはフッと笑いかけた。
「大丈夫。お前くらい根性座ってれば恐いものはないさ」
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