乗り続ける生涯の道

12/16
前へ
/18ページ
次へ
「済まぬ。安全だと言っておきながら嫌な思いをさせた。怖かったな」 淡々とした口調。だがその言葉は西施の心に寄り添っていた。この一夜より、西施は范蠡に深い敬意を表し、忠誠を誓う事になる。 「いえ。慣れております」 「慣れている事と怖いと思う事は別だ」 范蠡の淡々とした声音。西施は涙を一粒零した。 「今宵の事は、この私、范蠡の誤ちだ。許せとは言わぬ。だが罪滅ぼしはさせてもらう」 范蠡は、入れ。と外に声をかけた。入って来たのは、西施より五歳以上年を取っているだろう男。 「この男は私の手足として動いている。武術の心得もあり、棒術は師範の腕前だ。安心して頼るが良い。無論、此奴も男よ。西施が恐ろしい、と近寄らせたくないなら仕方あるまいが。見所はある。其方が誘いでもしない限り、この男が其方に指一本触れる事はあるまいよ」 「私の護衛、という事でしょうか」 「そうだ。私との連絡役でもある。名は琇と言う。西施が望む事なら何でもするように伝えてある」 「例えば、閨の相手など、でしょうか」 「望むなら、な」 「命懸けて守って欲しい、と言ったなら守ってくれる、と」 「無論だ」 琇と呼ばれた男は、無言かつ表情の乏しい男。眉が動くくらいしか感情の動きは読めぬだろう、と范蠡が言う。だが、約した事を違える事はせぬ、とも范蠡は言った。そこまで范蠡に言わせるならば、西施は信じてみる事にした。 以後、琇は西施を陰から支えていく。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加