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「済まぬ。安全だと言っておきながら嫌な思いをさせた。怖かったな」
淡々とした口調。だがその言葉は西施の心に寄り添っていた。この一夜より、西施は范蠡に深い敬意を表し、忠誠を誓う事になる。
「いえ。慣れております」
「慣れている事と怖いと思う事は別だ」
范蠡の淡々とした声音。西施は涙を一粒零した。
「今宵の事は、この私、范蠡の誤ちだ。許せとは言わぬ。だが罪滅ぼしはさせてもらう」
范蠡は、入れ。と外に声をかけた。入って来たのは、西施より五歳以上年を取っているだろう男。
「この男は私の手足として動いている。武術の心得もあり、棒術は師範の腕前だ。安心して頼るが良い。無論、此奴も男よ。西施が恐ろしい、と近寄らせたくないなら仕方あるまいが。見所はある。其方が誘いでもしない限り、この男が其方に指一本触れる事はあるまいよ」
「私の護衛、という事でしょうか」
「そうだ。私との連絡役でもある。名は琇と言う。西施が望む事なら何でもするように伝えてある」
「例えば、閨の相手など、でしょうか」
「望むなら、な」
「命懸けて守って欲しい、と言ったなら守ってくれる、と」
「無論だ」
琇と呼ばれた男は、無言かつ表情の乏しい男。眉が動くくらいしか感情の動きは読めぬだろう、と范蠡が言う。だが、約した事を違える事はせぬ、とも范蠡は言った。そこまで范蠡に言わせるならば、西施は信じてみる事にした。
以後、琇は西施を陰から支えていく。
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