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それからしばらく。西施は密かに范蠡から立ち居振る舞いや話し方などを教え込まれた。その月日の中で、同郷の少女・鄭旦が身売りしている事を耳にする。
「范蠡様」
「琇か。どうした」
闇に紛れて聞こえて来た部下の呼びかけに応える范蠡は、琇を経由して西施からの頼まれ事に耳を傾ける。
「西施と同じくらいの美しき娘?」
范蠡が首を捻るのも無理は無い。西施ですら、この世にこれ程の美女がいるなどとは思わなかった。と胸内で呟く程の美しさだったのだ。そんな娘がもう1人いる、と言われても俄かに信じ難い。とはいえ、西施が嘘をついているとも思えず、その娘の身は范蠡が預かる事を約束した。
そうして、鄭旦もまた、西施と共に呉王・扶差へ献上される美女の1人になる。美人一計の策は、古来より上策の一つである。簡単に言えば、美女を王に侍らせ、心身共に骨抜きにする、というものだ。扶差も男である以上、女に弱いのは自明の理だった。
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