乗り続ける生涯の道

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越王の特にお気に入りは西施であり、西施を片時も離さなかった。西施は范蠡の思う以上の働きを見せる。 句践を籠絡し、次々と句践の懐刀と言うべき部下達を追い落とし、甘言を弄して男達を手中に収めて弱体化させていった。その手腕は琇を通じて范蠡の耳に届き、頃合いを見計らって、呉王・扶差と范蠡は、越を滅ぼした。 長い長い戦が漸く終結した。 戦後の処理の名で、范蠡は西施や鄭旦達に会い、今後の事を話し合った。 曰く。鄭旦は気ままに旅をするという。 曰く。他の娘達は郷里に帰るという。 恩賞としてそれなりの金品をそれぞれに分け与え、郷里に帰る者は、范蠡の部下に送り届けさせた。 「西施よ」 「范蠡様」 「永きに渡り、ご苦労だった。大儀」 「いえ。苦しい時もありましたが、楽しい時もありました」 「そうか。これからどうする」 「心穏やかに過ごしたい、と」 「分かった。琇と婚姻し、隠れ家を用意したから行くが良い」 「ご存知、でしたか」 「琇から西施を妻にしたい、と言われていたからな」 「……范蠡様は、これからどうするおつもりで」 「越を滅ぼした今となっては、王より出来た部下など末路は分かるだろう。達者で暮らせ」 そこで西施と范蠡は今生の別れを済ませた。西施は琇と婚姻し、隠れ家で過ごし、范蠡は王より出来た部下である事で、王から恨まれる事を予期していた。 昔からよく出来た部下の叛逆に怯えて、主君が部下を罪人に仕立て上げる事は良くある事だ。幽閉か死か。そのどちらも御免被る范蠡は、とっとと呉から脱出して、名を変え、住まいを転々として、呉から遥か遠い地で安住した、と伝えられている。 (了)
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