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「連れて参りました」
兵士が頭を垂れて報告する。その隣に娘も同じように頭を下げていた。着ている物はぼろ布と間違えそうな品だが、滲み出る美しさは着ている物を絹を纏っているように見せる。
兵士達を使いに出した人物の名は、范蠡。
この越の国の宰相だ。呉の国を滅ぼす事を目標とする越王の若き右腕。
「娘、面を上げよ」
范蠡が声をかけると恐る恐る伏せられていた顔が上げられる。范蠡は娘と視線を合わせ、息を呑んだ。なんという美貌。まだ磨かれる前の原石の段階でこの美しさならば、磨き上げた後はこの世に唯一人の美女になろう。
范蠡は、我知らずほぅっと溜め息を吐き出していた。外見は予想以上に素晴らしい。だが、見た目だけが美しい女は要らない。見目同様、洗練された美しい仕草とそれ以上の賢さが、范蠡の計画では必要だった。
行儀作法は余程物覚えが悪くない限りは教えればなんとでもなる。知識や教養も同様だ。だが、身に付けた物を発揮する機会を手繰り寄せる運と、苦境に陥った時、どのように行動するかという判断と、情勢を見極める賢さが無ければ、意味はない。
とりあえず、娘の美貌に引き寄せられたが、范蠡は自らを見失わずに敢えて観察の目を娘に向けた。
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