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「……辛い目に遭ったな」
愛し合う気持ちの延長での閨事だけでは無い、と理解しているということは、そういう事だろう。良く見れば、震える手を抑えているようだ、と范蠡は気付く。
「……いえ」
西施は、はっとした表情を浮かべてから緩く首を振った。淡々とした范蠡の声には、何故か癒された。
「男と二人きりは恐いだろう。扉を開けておこう。逃げたいならば直ぐに逃げられる」
西施は、初めて范蠡という男を見た。視界に入れるだけなら先程から入っていたが、宰相様という感覚で、范蠡という人物ではなかった。
「いえ。宰相様がお人払いされたのは、重大なお話があってのことでしょう。大丈夫です」
西施は初めて肩の力を抜き、同時に手の震えも止まった。
「ならば、そなたがこの室から出るまで、私は動かないことにしよう。指一本動かさないから、安心するといい」
范蠡は卓の上に両手を重ね置き、そこから話をしている間、本当に指一本動かさなかった。
「私に話とはなんでしょう」
肩の力が抜けた西施は范蠡を信じていい、と判断した。
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