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「これから話すことは、そなたが受ける事になってもならなくても、他言無用。それは誓えるか」
その声音は重い。西施は背筋を伸ばす。
「お誓い致します」
その言葉を信じよう、と頷いた范蠡は西施を呼んだその事情を説明しだした。西施は最後まで黙って聞き終え、息を一つついた。その溜め息でさえ、一幅の絵画のように美しいな、と范蠡は感嘆した。
「無論そなたには拒否する権利がある。だが、承諾するならば、そなたの望みを叶える事にしよう。私の名にかけて」
范蠡がそう締めくくると、西施は目を閉じた。それはとても難しいものだった。承諾するならば、一年や二年で成し遂げられるものでは無い。生まれ育った土地も離れ、知人の一人も居ない孤独なものになるだろう。
「とても、とても難しいもの、ですね」
先ずそれだけを告げた。指一本動かさない、と口にした范蠡は頷く事さえしない。だが、その目を見れば、その通りだ、と言っていた。
「一日・二日で終わるものでは無いでしょう」
西施が呟く。
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