恩義に報いて私心を殺す

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 その娘が、王允と出会ったのは、齢十五の頃であった。その頃の娘の名は別に有ったが、単に通称でしかなかった。王允が娘に目を止めたのは、美しかったからではない。  あまりにも酷い身なりをしていたから、だった。  世情が不安定ゆえに、名も無き貧しい民が餓えに苦しみ喘いでいる。弱者には冷たい、そのような時代だった。  王允は、その真っ直ぐな心と清廉な政治を目指す志で、既に多くの民衆の心を掴んでいた。将来は帝の側近くで手腕を奮うだろう、と思われていたし、そうなれば、この世が生きやすくなる。と、民衆は信じていた。  そんな王允が馬車で帰る途中で、見つけたのがその娘だった。襤褸としか言い様の無い服に裸足。髪は砂埃まみれ。顔は泥だらけ。しかし、生きることを諦めない、力強い意志が宿った目をした娘。  興味を持って、連れ帰ることにした。
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