幸と不幸をその身に浴びて

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 皇太子妃候補として、玄宗の前に現れた娘こそ、後の楊貴妃……楊玉環だった。楊玉環を見た玄宗の中で、後宮に侍っている美女達は取るに足らない存在へと化した。  「楊玉環と申します。皇帝陛下」  あくまでも妃候補。間違っても義父上、などと呼び掛けてはいけない。挨拶をしてそれ以上のことは、玄宗が口を開くまで話さない。暫しの沈黙がその場を支配していた。  「玉環……好い名だ」  「ありがとうございます、陛下」  「その美しい玉のような姿に合っている」  その言葉には、羞じらいの微笑みを浮かべるだけの玉環。だが、玄宗の次の言葉には、戸惑いの表情を浮かべた。  「そなた、暫しの間、道女として入っていなさい」  道女として……髪を剃らない尼になって、寺に入れとは、どういうことか。皇太子妃候補の自分が、皇帝に気に入られなかったからとはいえ、いきなり世俗と交わらない暮らしを送れ、と言われても戸惑うしかない。
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