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2040年10月23日 (小林博文)
もう10月下旬だというのに外は呑気なアサガオが咲いたままになっているぐらいにしつこく残暑が残っていたが解剖室の中は鳥肌が立つくらいの室温だったので少々自律神経が心配になった。
「これより変死体の解剖を始めます」
今回の解剖は7人中、現在遺族の司法解剖の許可がとれている4人もの遺体を切るため警察医である小林と、同じ医大に通っていた大沢巧医師の協力のもと行われた。
まず小林は意識を失い倒れたことからセオリー通り頭内部の原因を疑った。
大沢の意見も一致したためまず脳頭蓋を取り外し、脳を露にした。
「んー、特に異常は見当たらないな、そっちは?」
大沢に質問をしたが首を横に振っていた。
突然死で次に疑われる部位は心臓だ。
「次は心臓を見てみる、そっちも頼む」
胸骨を取り外し心臓を見てみたがこちらも異常が見当たらない。
やはり大沢のほうも両腕でWを作り、お手上げだというジェスチャーだった。
その後、全体にわたってメスを入れたが成果は得られなかった。
「毒ガスにしろウィルスにしろ必ず体のどこかには異常が出るはずだが、こんなに健康体の遺体は初めて見たな」
大沢と助手の人間も小林のブラックジョークには慣れていたので適当に流した。
結局この日は何の手がかりを得られずじまいで、外との気温差で肉体的にも神経的にもぐったりさせられただけだった。
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