第1章

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■舞城王太郎と清涼院流水をめぐる「清涼院流水問題」  第19回メフィスト賞を受賞した舞城王太郎は、第21回受賞者である佐藤友哉とともに、同賞出身者のなかでもミステリと純文学とにともに地位を築いた、二〇〇〇年代以降のミステリシーンを語るうえで重要な存在のひとりである。  舞城王太郎は『煙か土か食い物』でデビューする以前、約六年におよぶ投稿生活をおくっていた。 「メフィスト」二〇〇一年一月号の巻末原稿募集座談会での編集者D(唐木厚)の発言によれば、「この作者はメフィスト賞が始まる前から僕に原稿を送ってきたという由緒ある投稿者」だったという。 『ディスコ探偵水曜日』の歴史にはこうした舞城自身の経験が反映されている。  おれは清涼院より前から応募していた、さきに賞を獲るべきはおれだった、おれが賞の歴史を先導するべきだった――そう、言いたいかのようである。  探偵に「ルンババ12」などというふざけた名前をつけるセンスから、ピラミッド水野だの九十九十九だのカプチーノ・ノブ・鈴木だの犬神夜叉だのといった探偵名を用いていた清涼院の影響を受けているのではないかという疑念が、デビュー以前の「メフィスト」二〇〇〇年五月号巻末座談会から提出されていた(その座談会のなかではじっさいは清涼院を名指しせずに「某作品」と呼ばれているが文脈から清涼院作品であることはあきらかだ)。  しかしDによる「ところが、この投稿者の方が先なんだよ。だからこれは某作品の源流? なのかもしれない」という指摘によって両者の影響関係についての推論はくつがえされている。 「メフィスト」九八年五月号で紹介された「世紀末サンタ」という応募作では探偵・海王星Dとルンババ12、喜多畑エンジェリオはおなじ作品に登場しており、清涼院流水が探偵組織JDCを展開する以前から名探偵が複数人参加するスタイルを考案していた可能性もうかがえる。  登場するのは『ディスコ探偵』に登場する水星Cや、『NECK』などに登場する冥王星Oや天王星Rの前身(?)海王星Dだけではない。
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