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次に目に入ったのは暗い赤めの茶色。木材が交差しているのも見える。
そして、何か柔らかいものにくるまれている。
ここは、さっきの場所とは違うのか……
「あ、目が覚めました?」
ふと、右側から声がした。
見回してみると、人が見えた。人はこちらに近づく。
「気が付いてよかったです。家の前に人が倒れてたから。
しかも、頭から血が流れていたものだからびっくりしました」
肉の、匂いが、近づく。
「大丈夫ですか?熱とか、ありませんか?」
人が、僕の顔に手をかざす。
僕はすかさずその手を取った。
そして、迷わずその手に食らいついた。
人は、無言だった。
僕も、無言だった。
僕は、無言で人の手を咀嚼した。
人の手は大きかった。作業をする手らしく、しっかりしていて、厚みがあった。
血の濃さも適当で、鉄臭ささえもしばらく空腹の身の自分には大変甘美だ。ぼたぼたと血をこぼしてしまったのがすごく勿体無いと思う程に。
手首まで貪って一息ついたところで、人が声をかけてきた。
「しっかりきれいに食べてしまってくださいよ」
何かが、おかしい。
直後、ぶくぶくと泡立つように手首の先が盛り上がり、あっという間に元の手を形成した。
もともと手にあって僕が食べ残した骨の欠片や血や肉片などはちぎれて床やベッドに落ちた。
その変化をまじまじと見入ってしまい、食欲は消え失せた。
そして、後悔の念が押し寄せる。
「っ!!ごめんなさいっ!貴方の手、美味しかったですごめんなさい!」
掛け布団を押しのけて、立ち上がって頭をペコペコ下げる。
気づいたら人は、いや、人の形をした何かは、尻餅をついていた。
それは、大きい。成人男性のより頭一つ大きいくらい。そしてがっしりとした体格。胸の辺りの膨らみや、その他の丸みも見られないことから男性の可能性が高い。なので、便宜上彼と呼ぶ。
彼は、驚いた顔から柔和に微笑ませて言った。
「あー、いや、びっくりしたよ。いきなり手を食べられるんだもん。
その後頭ぶつけられそうになるし。君、意外と直情的だねえ」
あと、美味しかったなら食べられがいもあったものだよ、とも。
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