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真摯な目に見つめられて軽く慄く。
だから、わざと視線を外して、
「……僕は、人を食べないと生きていけない……化物、です……」
怖かった。
自分の欲に負けて彼を食らってしまったのが。
そして、自分をわざわざ化物と呼んでしまったことで、彼がどういう反応をするのかが。
そっぽを向いたまま沈黙の時が流れた。
僕はおずおずと彼を見る。彼は、悲しげな顔をしていた。
「自分が辛くなるようなことを何故口にするのだい?確かに、人を食べるのは他の人にとっては驚異だ。しかし、それは君の生きる手段だ。必要なことなんだ。普通の人だって、他の植物や動物を食べて生きている。同じことだ。
だって君は、食料が人である以外は人と変わりはないのだろう?」
悲しげな顔で、僕の苦悩に感じていたことを解きほぐすような言葉を掛けてくれた。
目の前がうるみ、頬を一粒の涙が伝う。
「打って変わって私は不死者だ。健康で、病一つもかからない。見た目もずっと一緒だ。人より力が強くて、人より若々しくて、人よりうんと長生きだ。傷ついてもすぐ治る。足を切っても生えてくる。体に穴が空いても即座に埋まってしまう。太陽が昇って沈んでを5回繰り返す間、食べなくても平気だ。あまり長すぎると危ないけどね。
これのどこが人って言えるのだい?長く見た目が変わらないことも、傷が再生する様子も他の人にとってはとても気味悪がられているんだ。そんな私にとって、君は普通の人間だよ」
そんな、悲しげな顔で自分を卑下しないで……っ
「そんな、そんなこと、言わないでください……っ。僕達は人にとっては悪いものかもしれない。でも、僕達だって生きているんだ。生きている以上は、僕達に価値があり、意味があるんだ。僕は、それを信じて、貴方の噂を聞いて、貴方に会いに来たんだっ!」
激情に駆られて立ち上がる。彼の胸くらいしかないけれど、思いを込めて睨み上げる。
彼は、とぼけた顔をした。
「……私に……?」
「そうです!」
「何の用があって」
「……人でないもの同士、何かわかりあえるのかも、と思って……」
思い立ったらすぐ行動に出てしまい、会ったらなんとかなるだろうという浅はかな気持ちでここまで来てしまったゆえに言葉が尻すぼみになる。
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