Case1.

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細い月の昇る夜更け。都会の喧騒から離れた、人気のない裏道。廃業してまだ間がないその酒場には、酒瓶が散乱している。その脇にある階段を上がった、ろうそくの灯りが薄く照らす小さな室内で、数人の男達が祝宴を開いていた。 「あんなに上手くいくとはな!」 「人質一人取って脅してやりゃあ、ヘコヘコと金を差し出しやがった!」 下卑た男達の声。あけすけに成されるのは後ろ暗い密談だ。それもそのはず、彼らは指名手配中の強盗犯。今日もとある銀行を襲い、小遣い稼ぎをしてきたところだ。 「この金全部オレらのもんだ!一生遊んで暮らせるぜ」 酔いの回った男達が上機嫌に笑う中、一人辛気臭く俯いている男がいた。彼はおずおずと切り出した。 「…早くここから出ようぜ」 気弱な男の発言に他の男達は赤い顔をしかめた。一人が呆れたように言う。 「何心配してんだ、あとは金持ってこの街からとんずらするだけだぞ。へぼいサツなんざ目じゃねぇ」 「警察じゃねぇよ…」 男は怯えを隠しきれぬ様子で言った。 「…本当に、ドンから逃げ切れると思ってるのか?」 その時、下の方からガタンッと大きな音がした。しんとその場が静まり返る。 「なんだ?まさかサツか?」 「風だろ」 「一階に見張りがいるはずだが」 先程から一人顔を青くしていた男は、いよいよその顔に絶望を滲ませ叫んだ。 「ドンの追っ手だ!バレたんだ!殺される!」 「うるせぇ黙ってろはっ倒すぞ!」 男達は立ち上がり、それぞれ扉に向かって拳銃を構えた。再び沈黙が落ち、緊迫感だけが走る。 ギィ…ギィ…と階段のしなる音が聞こえてくる。ゆっくりと近づいてくるその音に、男達は拳銃を握り締めた。 そして暗い階段口から現れたのは、一人の男だった。 まず目を奪われたのは、鮮やかな金髪。赤いシャツに、肩に掛けたピンクのジャケット。白い肌、すっと通った鼻筋、形の良い唇…と、圧倒的なその美貌。どこまでもこの場に似合わない華やかな出で立ちだ。しかも見たところ丸腰である。しかし、その宝石にも劣らない青い瞳に、男達は縫い留められたように動けなくなった。追っ手ではない。警察でもない。勿論、味方でもない。…何者だ。 そんな警戒と畏怖の視線を一身に受けた男は、それを気にした様子もなく、男達の顔を見回した。そして一歩中に踏み込む。そのことで、呆然としていた男達も我に返り、銃を構え直して叫んだ。 「誰だてめぇ!」
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