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「なら、どんな奴ならいいんだ?」
マイクの問いに、んーとレイが考える素振りを見せる。
「まず、頭も身体も俺についてこれなきゃダメ。あと性格良くて、料理上手で、家事とかやってくれてー」
この辺りでマイクは「嫁か!」とツッコミそうになった。
「んで、絶世の美女」
「……」
「胸の大小はこだわらねぇが、お尻がしまってて、唇の形のエロい…」
「………次の仕事はどうする」
マイクはとうとう話を変えた。結果、話の腰を折られたような形になったが、レイは気にするどころかむしろ勝ち誇ったようにニヤリと笑った。確信犯である。さらさら誰かと組む気などないのだ。
「仕事はしばらく休みだな」
「また遊び歩いて散財する予定か?」
「いや、ちょっと気になることを小耳に挟んでよ」
「なんだ」
「あいつらを捕まえた時に聞いたんだが、ドンって名前を知ってるか」
マイクはすぐさまピンときたらしく、棚から資料を取り出す。
「ドンっつったら、あの地区を牛耳ってる悪の親玉、マフィアのボスだ」
これだ、とカウンターに差し出された写真をレイは覗き込んだ。恰幅の良い禿頭の、見るからに悪人面の中年の男だ。
「あの地区で盗み一つするのにもその男の許可がいるらしい。お前が昨日捕まえた連中は、無断で銀行強盗に入って怒りを買い、追われてたみたいだな。ちょうど逃げるところをお前に捕まったんだと」
「なんでまたそんなことに?」
「どうやらドンは、ならず者共に資金を調達してやって、奴らが稼いでくる…つまりは盗みで得た金を収入にしてやがるみてぇだ」
「ふぅん…」
レイはしばし考えて、納得したように一人頷いた。
「よし、決めた」
マイクは眉間にしわを寄せ、訝しげに聞いた。
「何をだ?」
「次のターゲット、こいつにする」
「おい待て待て。確かにこいつは悪党だが、そりゃ無理だ」
「何?」
「こいつは賞金首じゃない。それどころか、社交界にも顔のきくお偉いさんだ」
ドンという男は、実際に何か表立って事件を起こしたわけじゃない。つまり指名手配されているわけではないから、賞金首でもない。裏ではその悪名はよく知られているが、そんな話は表ではただの黒い噂でしかない。触らぬ神になんとやらで、警察の暗黙の了解を得ている風ですらある。
「一銭にもならんぞ」
「だからどうした」
すっばり言い切ったレイに、マイクは二の句をつげない。レイはいっそ凶悪とも呼べる笑みを浮かべた。
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