Case1.

5/35
前へ
/42ページ
次へ
「なら、どんな奴ならいいんだ?」 マイクの問いに、んーとレイが考える素振りを見せる。 「まず、頭も身体も俺についてこれなきゃダメ。あと性格良くて、料理上手で、家事とかやってくれてー」 この辺りでマイクは「嫁か!」とツッコミそうになった。 「んで、絶世の美女」 「……」 「胸の大小はこだわらねぇが、お尻がしまってて、唇の形のエロい…」 「………次の仕事はどうする」 マイクはとうとう話を変えた。結果、話の腰を折られたような形になったが、レイは気にするどころかむしろ勝ち誇ったようにニヤリと笑った。確信犯である。さらさら誰かと組む気などないのだ。 「仕事はしばらく休みだな」 「また遊び歩いて散財する予定か?」 「いや、ちょっと気になることを小耳に挟んでよ」 「なんだ」 「あいつらを捕まえた時に聞いたんだが、ドンって名前を知ってるか」 マイクはすぐさまピンときたらしく、棚から資料を取り出す。 「ドンっつったら、あの地区を牛耳ってる悪の親玉、マフィアのボスだ」 これだ、とカウンターに差し出された写真をレイは覗き込んだ。恰幅の良い禿頭の、見るからに悪人面の中年の男だ。 「あの地区で盗み一つするのにもその男の許可がいるらしい。お前が昨日捕まえた連中は、無断で銀行強盗に入って怒りを買い、追われてたみたいだな。ちょうど逃げるところをお前に捕まったんだと」 「なんでまたそんなことに?」 「どうやらドンは、ならず者共に資金を調達してやって、奴らが稼いでくる…つまりは盗みで得た金を収入にしてやがるみてぇだ」 「ふぅん…」 レイはしばし考えて、納得したように一人頷いた。 「よし、決めた」 マイクは眉間にしわを寄せ、訝しげに聞いた。 「何をだ?」 「次のターゲット、こいつにする」 「おい待て待て。確かにこいつは悪党だが、そりゃ無理だ」 「何?」 「こいつは賞金首じゃない。それどころか、社交界にも顔のきくお偉いさんだ」 ドンという男は、実際に何か表立って事件を起こしたわけじゃない。つまり指名手配されているわけではないから、賞金首でもない。裏ではその悪名はよく知られているが、そんな話は表ではただの黒い噂でしかない。触らぬ神になんとやらで、警察の暗黙の了解を得ている風ですらある。 「一銭にもならんぞ」 「だからどうした」 すっばり言い切ったレイに、マイクは二の句をつげない。レイはいっそ凶悪とも呼べる笑みを浮かべた。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加