恋人は、大学教授

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 わたしは熟睡した。  彼の手で最後に果てた後、どうなったか覚えていない。快楽の渦に巻き込まれて、そのまま気を失ったように眠ってしまった。もともと睡眠不足だったのに加えて、最後の一滴の力まで搾り取られたから。  翌日に目が覚めたとき、わたしは自分がどこにいるのか、すぐにはわからなかった。 「誠の……家か、」  寝室をはじめて認識した。きのうは電気をつけないままだったから(ついていたとしても部屋の内装に関心がいったとは思えないけど)。  わたしはホテルの最上階スイートにでもいる気分だった。  キングだかクイーンだかのサイズのベッドは真っ白で、内装はリビング程モダンではなくオーク調のトーンでまとまっている。白と明るい木の色のコントラストが目に優しかった。  起き上がり、着るものを探す。  すぐにル・コンビジェのリクライニングチェアの上にバスローブを見つけた。昨日脱ぎ散らした服は見つからないから、きっと彼が仕舞うか洗濯に回し、代わりにこれを出しておいてくれたのだろう。  バスローブを羽織って寝室を出た。  リビングに足を踏み入れると、誠はキッチンカウンターで太陽を背にパソコンと向き合っていた。  ”おはよう”とわたしが声をかけると、椅子から降りて迎えに来てくれた。 「おはよう」  額から頭部にかけてを撫でるようにわたしの前髪をかきあげた。 「気分はどうだい」  彼がそう尋ねた。 「……生まれてから一番いいかも」  わたしがそう答えると誠は喜んだ。彼はすでに着替えている。首元が開いたカットソーから鎖骨が見えた。 「シャワーを浴びてもいい?」 「もちろん。湯船にお湯を溜めてある」  誠はバスルームは寝室の奥にあるドアの先だと教えてくれた。 「その間に僕は下のパン屋でなにか買ってくるよ。なにがいい?」 「あなたと同じものをお願い」  わたしは彼を玄関まで送ってからバスルームへ向かった。  きっと彼はわたしが起きるまで買いに行かずに待っていてくれたんだろうな。お腹が空いていたでしょうに。彼の恋人としての行動は満点を越えていた。
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