恋人は、大学教授

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 お風呂から上がって髪の毛を乾かしていると、リビングの方から音がした。誠が帰って来たのだろう。ドライヤーを強風にしてとっとと終わらせた。 「おかえりなさい」  彼はテーブルにシーフードサラダとローストビーフサンド、たまごが挟まれたクロワッサンをふたつずつ広げていた。彼は微笑んでただいまと言った。  のどかで気持ちがいい。  お日様はとっくに登っていた。  誠の正面に座ってるんるんでサンドイッチを食した。 「パン屋さんって近くにあるの?」 「下の公園のなかにある。ここの住民が頻繁に利用しているみたいだ」  あ、そうだった。 「ねぇ誠、ここのお家はなに? あなた本当に大学教授?」 「え?」  彼は聞き返したが、すぐにわたしの質問の意図に気がづいた。 「あぁ、僕の収入の大半は知財収入によるものなんだ」 「ちざい、収入?」 「そう、知的財産の特許権による収入。開発したソフトを企業が使うたびに、何パーセントかの使用料が僕に入る」 「え、それってこの間完成させた”リリー”とか?」 「あれもゆくゆくはそうなるだろうな」  彼はそういった収入で生計を立てていたのか。 「今までどういうもの技術提供をしてきたの?」 「どういうものか……一般に使われているものは少ないな」  確かに専門的なものが多そうだ。 「あぁ、ひとつ、観光地やテーマパークで外国人観光客の案内に使われているものがある」 「ガイドが解説する日本語を、素早く英語や中国などの設定した言語に訳してくれるものだ。イヤホン越しに同時通訳が起こるから、日本語がわからない外国人でもツアーに遅れずについて行かれる」 「すごい……」  イギリスの高校生が自作アプリをYahoo!に2000万ポンド、約29億円で売却したという記事を読んだことがある。そのときはすごい子もいるのねという他人事だったけれど……わたしの目の前に座る人もその類だったとは。
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