冬の休暇

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「何も……ない」  食後二人で湯船に浸かった。ユリが僕に背中を預けるようにもたれかかっている。 「痣や傷はもちろん、何一つとして跡がない」  ユリの手を持ち上げ、反対側もみてみた。 「なに、してるの、」くすぐったそうだ。 「やはりこっち側も同じか……」  脚の方も触ってみた。膝や踵もすべすべしている。気持ちがいい…するとユリから甘い吐息が漏れた。彼女を念入りに点検していた僕の手が、どうやら彼女の感度の良いところをかすめたらしい。 「ここか」 「そこ……きもちいい……」  彼女の首筋を舐めながら指を動かす。感じてくる彼女に身体が反応する。 「ねぇ、しよう?」  ユリが切なそうに振り向いた。ここで断る男がいるならお目にかかりたい。  彼女が対面を向いて、湯船のなかで僕に股がった。ゆっくり腰を下ろすと一気に快楽で包まれて、体温がこれ以上ない程上がる。 「まこと……気持ちいい……」  彼女の腕は僕の後頭部にからまり、指は僕の髪をくしゃりとかき分ける。 「僕も相当、気持ちがいい……」  ユリは締め付けたまま腰を小刻みにくねらすから、頭が朦朧とする……  白百合のように美しく暖かく笑う彼女。  行動力があって信念を曲げない彼女。  面倒見が良くて自己犠牲を厭わない彼女。  自分の感情や欲求に忠実な彼女……  ユリと付き合い始めてから、僕はとにかく幸せだった。  僕は彼女ほど誰かに惹かれたことはなかった。女性と付き合ったことはあるけれど、申し訳ないことに、別れるなら別れるで構わないと、心のどこかで思っていたんだと気がついた。付き合っていた人が去ったとき、一度も追いかけたことがなかったから。  だけどもしいつか、ユリが僕から走って逃げようとするならば、そのときは必ず追いかける。理解できなくても、わかり合えなくても、それでも捕まえて自分の腕のなかに入れる。  今回は、そう言い切れる自信がある。
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