卒業

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 お決まりの祝辞にお決まりの校歌斉唱。  わたしは自分の卒業式なのに、大して感動しなかった。院の方に残ることも関係しているだろうけど、昔からこういう行事で感情移入したことがない。表彰も、どうもありがとうという程度で受け取ってさっさと自席に戻った(神田くんもちゃんと生きていた)。  式典が終盤に差し掛かり、わたしはそういえばと誠を目で探した。彼も来ているはずだ。先生方は来賓と同じように壇上の左右に別れて座っている。わたしの正面の右側にはいない…左側に目を移したときに、すぐに彼と目があった。  急に胸が高鳴る。  幸せ過ぎる休暇が終わった後は、互いに自然と日常に戻っていった。誠は教授、わたしは大学生の生活に。  センター試験が始まって大学受験のシーズンが漂ってから、彼は忙しくしていた。そしてわたしは山積みになっていた進学の課題に手をつけていた。  土日は時間をとって会っていたけれど、ずっと一緒にいられた二週間の後だとちょっと物足りなかった。だからこんな式典なんかとっとと終わらせて、はやく彼のもとに行きたいと思った。
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