卒業

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・・・  気温は低いのに陽の光で明るい”卒業式日和”。  会場から出ると、辺りは人でごった返していた。卒業証書を片手に学友と抱き合う学生やカメラを持った父兄がわんさかいる。  ここに来る前にわたしは自分の派手さを懸念したけど、周りを見る限りそんな心配は杞憂だった。みんなの気合の入りようは、お見それ入りましたというくらい。  特にすごいのが彼女。 「よっ! おめでとさん!」  あかりは真っ赤な着物に紺の袴という王道の組み合わせを纏い、人一倍大きいボタンの髪飾りを三つもつけていた。派手ではあるものの、漆黒の髪を持つ彼女に良く似合っていた。 「飲みに行くわよー!」  そう言って手を引っ張られた。わたしは今日ばかりは逃げられないと抵抗しなかった。  あかりの招集力は伊達ではない。人集めよりむしろ、よくこの人数が入るハコが見つかったわねと関心してしまう。  飲み会には一年生以来の三年ぶりに会う子もいたし、話しかけられたときには一瞬誰か分からないくらい入学当初と変わった子もいた。共通の思い出話を酒の肴に、飲む騒ぐの大宴会。  みんな酔いが回りはじめて、人の出入りにこだわらなくなってきた頃、わたしはこっそり会場を抜け出した。階段を下りて通りに出る。  待ち合わせた場所に彼はいた。  アウディーA8を背に、わたしがバレンタインにダークチョコレートと一緒にあげたマフラーを巻いて立っている。 「お待たせ。車の中にいてくれて良かったのに、寒かったでしょう」 「いま気分転換に出たところだ。それより、すごく綺麗だよ。式典のときから思っていた」  誠がわたしの袴姿を見て言った。 「ありがとう……だけど、もう限界」  彼は苦笑いした。 「やっぱり苦しいのか、それは」  そう言ってから、左手で夜風に当たって冷たくなったわたしの頬を暖めるように包んだ。わたしは彼の肩に手を添えて背伸びした。  唇がそっと触れてそっと離れた。 「じゃあ早く帰って、袴も服も何もいらないことをしよう」 「それ賛成」 ・・・
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