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「ユリちゃんはなにとったの?」
机にカバンを置くころ話しかけられた。そしてわたしがプログラミングだと告げると、女の子たちの目の色が変わった。
「ねぇねぇ、水樹先生はどう? かっこいい?」
ひとりは身を乗り出している。そんなに有名だったのかとちょっと驚いた。
「正統派だとは思うけど…それより授業がおもしろいよ」
わたしはジャケットを背もたれにかけ席に座った。
「ユリちゃんはクールだね?わたしたちも先週その授業出たけど、水樹先生のこと目で追っちゃって内容ぜんぜん頭入んなかったもん」
「今回単位落とすとやばいから取らなかったんだよね」
「でも聴講しに行ってもいいくらい」
笑みがこぼれた。この子たちにかかれば教師だって恋愛対象になるのね。なんていうか、わたしとあかりが選んだのはあくまで愛玩用としてだったから。
「ユリちゃん、芸能人のこと好きになったりしないの?」
アイドル紙を広げてみせてくれる。ゼミ長と目があっちゃった。”今日は団らんの外で見守るポジションは無理そうだな”って感じの苦笑いをしている。
「たとえばこの俳優!この顔で背が高くて優しくて、しかもうちの大学の卒業生なんだよ?」
「うーん、そうね。素敵だとは思うんだけど…」
「やっぱり好きになったりはしないのか?」
ごめんね、一緒にはしゃげなくて。心のなかで謝ってみた。
だけど優等生のお王子様なんて、付き合ったって三日で飽きると思うの。だから残念だけど、その情報だけで興味アンテナは立たないかな。やっぱり人間、面白みや魅力がなきゃ。欠点でもいいからさ。
あ、ゼミの先生が入ってきた。
「ほら、授業はじまるわよ。課題になってたレポート持ってきた?」
高らかに持ってきたという彼女たちの後ろで、”やっば”という一声が。声の主は菓子パンをかじってた子。ゼミの単位まで落とさなきゃいいけど…
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