コーヒービーカー

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「まずフラスコに水を注ぎアルコールランプに火をつける。次に標本ビンの上にコーヒーミルを取り付け…そう、引き立ての豆が標本ビンの中に落ちるように。ビン底とロートの間にはろか器がついているから、フィルターはいらない。時間が経ってフラスコ内の水が沸騰すると、それはロートを伝って上昇してくる…」 「そうするとビンのなかでお湯とひいた豆がまざってコーヒーができる。そしてアルコールランプの火が時間とともに消えると、コーヒーは降りてくる。ここで切り替えが行われる。つまり水の入っていたフラスコ内に戻るのではなく、帰りは枝の部分を伝ってこのコニカルビーカーの方に落ちてくるというわけだ」  わたしは一種の感動を覚えた。この仕組みもすごいが、彼はいつもこの丁寧な作業を行ってコーヒー淹れているのか(あ、小さいひびを見っけ)。 「どうやって、」 「むかし本屋でコーヒー特集の掲載された雑誌をぱらぱらめくっていたら、そこにサイフォンの構造が書いてあったんだ。試しに造ってみたら機能したから、そのまま使っている」 「…」  構造が書いてあるからって作るとは、つわものね。  しかもこれが理工学部の先生ならわかるけど、水樹先生の専門は情報工学なのになんで…それよりも不思議なのは、 「それにしても、水樹先生は特任教授ですよね…研究室がこんな広くて立派だったなんて」  わたしは改めて室内を見渡した。
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