コーヒービーカー

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 わたしは室内を軽く見て回った。 「でも新設当時からいらっしゃるってことは、院卒後すぐ…?新卒で教授職に就くなんて難しそうですけど」  面白い形の器具を見つけて、目で触っていいか尋ねた。 「院生の時によくしてもらった教授に誘われたんだ。新しく開講される学部で特任教授として教えないかって」  先生はわたしに頷いてみせて、自身のデスクに座った。 「近年、少子化の影響で大学は学生の確保に必死だろう。うちも国立とはいえ、年々応募人数は少なくなっている。はなから私大を目指す学生も増えてきたしね。だから新しく学部を作るこという対策が練られた。”コンピュータサイエンス”などというカタカナの名称がつけば生徒が集まりやすい」 「ただ時代に合わせて創られたはいいが、教えられる教授がほとんどいないことに気が付いたらしい。それで大きめの研究室を与えるなど付加価値をつけて、急遽特任教授を募集した」 「そういうことか…」  学校の経営も大変なのね。うちの大学は代々文系学部が強く、理系学部は陰を潜めている。それなのに最近は工学系に力を入れているから不思議には思っていたけれど、理由なんて考えてもみなかった(おじいちゃん先生たちがパソコンを教えられるとも思えないしね)。  水樹先生は、一通り研究室を見学し終わったわたしに好きな席に座るように言った。わたしは実験台の下にあった丸椅子を出して腰掛けた。 「僕は卒業時が、ちょうどその募集時期に被っていたから教授職に就くことにしたという訳だ。きみの方は、卒業後どうするつもりなんだ?」 ・・・
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