観察日誌

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 翌週の火曜日。わたしは講義で定位置と化した窓側の十列目に着席した。  水樹先生は例の如く、時間ぴったりに前扉から教室に入って来る。例の如くかっちりしたスーツ姿で。例の如く右手に資料等ぶら下げて。  先生がこちらを一瞥した。手こそ振らないけど、わたしは微笑んで返した。 ・・・  いつもは真剣に聞いてるけど、きょうはちょっと心ここにあらずだった。なんだろう、なにか面白いことがないか探しちゃう。  露前の快晴。  後ろ姿でさえ華やかな学生たち。  黒板に当たるチョークの音。  マイク越しの先生の声…  なんだか脳がぼーとしていてあまり働いていない。  そうだ。わたしはひょんな思いつきで、脳はレム睡眠入りから脱却した。夏学期は水樹先生の人物像について日誌をつくろう。  来年研究室に入ったら嫌っていうほどヒトについて研究して行く。秋から書き始める卒論でも教授は手厳しそうだし、その前にちょっと楽しい準備運動。  丁度この授業は半期集中だし、水樹先生はつかみ所がない個性的な性格しているから被験者としてはもってこいよね。第一印象からなにか変わるかしら。
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