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しばらくすると、室内にいい香りが漂う。挽きたての焙煎豆の香り。
「砂糖やミルクは?」
「まずはブラックでいただきます」
「期待度が高まると応える自信がなくなるな」
そう言って渡してくれたマグカップに、そっと口をつける。
「おいしい…喫茶店で飲むのみたい」
お世辞ではなかった。酸味は控えめでまろやかな味。きっと丁度いい水量と温度、注ぐタイミングが計算し尽くされているのだろう。
「それはなにより」彼は微笑んだ。
わたしは、初めてみる先生の笑顔と美味しいコーヒーに癒された。この場所も好き。
「ここ…いい空間ですね」
単純に本館から離れているというのもあるけれど、騒動とか競争とか、日常のごたごたから隔離されている感じがする。
「実は大学じゃないんだ」
わたしは笑った。でも先生のいう通り、ここは研究室でもないし、喫茶店でもないし、誰かの個人宅でもないみたい。何か知らないベールに守られているみたいな空間だ。
「あ。あれだけ質問に答えた後で申し訳ないですけど、わたしも聞いていいですか」
「構わないよ。きみだって僕の生徒だ」
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