百色の彼女

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 石村くんに最初に会ったときのことはよく覚えている。はじめてみた、というべきか。僕の授業に出席していて、会話や接触はなにもなかったが印象に残っていた。  講堂に入ってすぐ、学生たちを一瞥すると彼女が目に止まった。目立っていたのは美人だからという理由も含まれるだろう。しかしそれよりも、存在が他の学生と違った、という方が大きい。  端的にいって清楚だった。  年々女子学生の化粧が濃くなり、服装は派手に髪の色が明るくなっていく中で、石村くんは白いブラウスに真珠のピアスをつけ背筋をまっすぐにして座っていた。化粧は品がいい程度で、肩にかかる髪は窓からの陽で光沢を帯びていた。  しとやかに机に置いた本の頁をめくる姿は一際目立ち、そんなわけで僕は講堂に入ったときから彼女の存在に気が付いていた。  別に一目惚れをしたとか、いきなり強く心惹かれたとか、そんな大それたことが起きたわけではない。ただ単にいま時珍しい子がいるなと思っただけだ。
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