百色の彼女

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 先日、いつもの火曜日のようにここに来ていた彼女はソファで分厚い図鑑を読んでいた。なにやら楽しそうで、しばらくして堪え切れなくなって笑い出した。 「どうした?」  僕が尋ねると本から目を上げた。 「モンゴル史を読んでたんだけど、クリルタイってあるじゃない?」 「部族会議、のことか」  歴史は詳しくないから最低限の知識しかない。 「そう。あれって部族の次のリーダーを決めるときは、絶対に部族全員が会議に集まらなきゃいけなくて。 「チンギスハンが亡くなったときに、オゴタイハンはヨーロッパ遠征から呼び戻されたの。オゴタイハンはローマに踏み込む直前で、当時のモンゴルならローマ軍には余裕で勝てたはずだけど、クリルタイの号令は絶対だから。オゴタイハンの帰省にヨーロッパは命拾いした…」 「ほう」 「でまた時は十数年経って、フラグがエジプト統一に大手をかけたときに、今度は当時リーダーだったモンケハンの頭に岩が落ちてきて死んじゃったからフラグは朝鮮まで戻らなきゃ行けなくて、それでモンゴルはエジプトを征服できなかったんだって。あはは!もうだめ、おっかしくて」  彼女はソファーに倒れ込んで笑っている。
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