いつもの定食

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 今日は食堂に来ている。わたしがいつものように授業後に顔を出すと、朝からなにも食べてないというから学食ランチに付き合うことにしたのだ。  一、二年生が教授とふたりで雑談をしながら食事をしていたらそれは変に目立つかもしれないけれど、卒業間近の四年生が教授と色気のかけらもない話し…C言語とJavaScriptの違いについて話しながら食堂にいても、不思議に思われることはまずないだろう。  他のテーブルでも、学生がゼミの担任に進路相談をしてたりするしね。 「どこかにかけていてくれないか」  そう言って水樹先生は食堂の列に並びに行った。教授のなかには受け持ちの生徒を見つけて会話しながらちゃっかり列に入れてもらう人もいるのに、水樹先生は文庫本を片手に律儀に並んでいる。  あーあ、それどころか、横入りされちゃって…部活の練習帰りらしい男の子たちが、はしゃぎながらパンを取って列に割り込んだ。  わたしは公園で息子が友だちにからかわれているのを見ている母親みたいに、先生のことを見ていた。微笑ましく見守るのが九割、でもこんな感じで将来大丈夫かしらっていう心配が一割。  だけど当の水樹先生は微塵も気にしていないみたい(むしろ気が付いていない?)。きっと列の長さなんて彼の頭の中にはないんだろうな。  いま読んでいる本は座ってでも読む本だろうから、立って本を読むか座って読むかの違いだけで。基礎体力が高そうな彼にとっては、言ってしまえばほとんど違いがないのかもしれない。  そして例えば横入りしてきた人物に”忘れ物をとってくるから荷物を持っていてほしい”と言われても、きっと彼は快くそれを引き受けるだろう。”えぇ、いいですよ”と言っている彼の姿は容易に想像できる。
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