京都ゼミ旅行

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 京都への一泊二日の旅は、大学生活を振り返るのに有意義だった。  新幹線ではゼミ長に窓側をゆずってもらって、コロコロかわる景色を眺めながら日常を見つめ直した。  それに水樹先生のことも、少し離れた視点で考えた。おととい研究室から気をつけて行ってくるようにと見送られたとき、すごく優しい目をしていた。 ーー彼に会えないと死んでしまうとかではない。ただ週に一、二回顔が見られたら嬉しいーー  彼はわたしのことをどう思っているかしらなんて葛藤するほど初々しくはなかった。  先生に好かれていることはなんとなくわかっていたし、自分が彼に惹かれていることも…出会った当初感じていた好奇心が、とっくに恋心にかわっていることも自覚していた。 「神田くん、ユリちゃん、これ」  通路側から声をかけられて振り向くと、ゼミ生の一人が缶ジュースを差し出してくれていた。 「ありがとう」  受け取ると、彼女は通路を隔てたひとつ後ろの席に戻って行った。四人でトランプをするために180度回転させた席。気を利かせてわたしたちの分も買ってきてくれたのだろう。  そういえば彼女は夏学期始めのクラスで、わたしがプログラミングの授業を取ったと知った時に”水樹先生”に反応してたっけ。  なんだかおかしかった。  だってあのときはわたしが、教授まで恋愛対象に考える彼女に感心してたのに。すっかり立場が逆転してしまったから。  彼女の頭に水樹先生のことはもうからきしなくなっていて、わたしは彼のことばかり考えている。 ーー愛着心とトキメキとが付き纏っては慣れないこの見知らぬ感情を、恋心という甘酸っぱい名前で表そうかわたしは迷うーー  見知らぬ感情、なんて言ったらさすがにわたしの元カレたちに怒られるかしら。  ちなみに自分が在学生でありながら、教授職の水樹先生を想っていることに頭を悩ませることは、まったくなかった。最低限困ったことに巻き込まれないだけの注意を払っておけばいいと簡単に割り切れた。
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