夕食は

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 京都から帰ってきたわたしはすぐ日常に戻った。アフリカに一ヶ月も行っていたわけでなし、小さいキャリーしか持っていかなかったから荷物の片付けなんて三十分で終わった。  そして帰宅した翌々日は、お研究室にて先生とケータリングごはん。  お土産のお茶菓子とポールのバケットサンドを買って行ったら、先生は五日前から動いていないんじゃないかしらっていうくらい同じ姿勢で作業に取り組んでいた(もちろん衣服は代わっていたけど)。 ・・・  まわりはカリカリと香ばしく、なかはふわっとやわらかい。アンチョビソースが絶品。「最近よくランチをごちそうになってるな」先生がナプキンで口元を脱ぐってそう言った。 「いつもの美味しいコーヒーのお礼です」  今日は濃い目に入れてもらい、ミルクを加えてラテにした。 「買ってきてくれるのとここで入れるコーヒーとは違うだろう」 「?」  ただのお礼として言ってないのかしら。ここで飲まなかったらわたしは喫茶店で飲んでるんだから、金銭的な支出はほとんど違わない。 「どうしたの? コーヒーはおいておいても、学食ではおごってくれるじゃない」  学食は食券だから、なにがいいかと聞かれていつも自分のと一緒に買ってくれる。最近は一緒に学食に行くことも多いから、総合的にわたしの方が多く負担しているなんて有り得ないんだけど。先生は言葉に詰まってしまった。 「駄目だ…だから夕食は僕がごちそうしよう、と結論付けたかったのに」  上手く行かなかった、と肩をすくめた。  わたしはちょっと驚いた。そのあと自分の顔が緩むのを感じた。なんだ、そういうことか…普通に誘えばいいのに。まぁこんな人だから好きなんだけれど。 「じゃあ巻き戻しね。今度は茶々入れないから」  律儀に最初から言い直した彼に笑ってしまったけど、今晩の誘いは快く受けた。
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