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わたしが出身は東京かと聞くと、彼は生まれてから離れたことがないと言った。そしてそんな感じはした。小さい頃からTシャツと短パンより、スタイリッシュなスエードのスーツとか着ていそうだった。それに標準語を話していない水樹先生は、ちょっと想像が難しい。
「じゃあずっと都会っ子なんだ」
「あぁ、人工アスファルトでサッカーをして、コンクリートの上に作られた公園で野球をしてたさ」
パンにパテを塗って口に運び、先生は蟹のフリットを食べてまたちょっと驚いた。わたしたちが美味しいと言う度に、お皿を下げに来るボーイさんが嬉しそうに微笑む。
「今でも身体動かしたりするの?」
「ジムで走るくらいか。毎週土日のどちらかはハーフマラソン走っている」
「なにそれ、すごく健康的」
「そうでもしないと、この職業は教室間の移動でしか動かないから」
そんな日課があったのか。でも大自然のなか走るのではなく、スポーツジムというのがしっくりくる。心拍数とかきちんと管理していそう。わたしはむしろ彼が委員長タイプだったように見えると伝えると、彼は肩をすくめた。
「いや……ある意味問題児だったよ」
「ほんとう?」わたしは怪訝に聞き返した。
問題児の水樹先生は、ちょっと想像できない。
「小学五年生のときだったかな、初めてのパソコンの授業で担任の教師に”それってどういう構造なんですか”と聞いた。そうしたら”そんなことはいいから使い方を覚えなさい”と言われた。
だけど僕は小さい時からラップトップを買い与えられていたから使い方は知っていたし、興味と関心はデスクトップの構造にあった。だから昼休みに、持参したドライバーとニッパーで自分でこじ開けてみたんだ」
「こじ開けて?」
「うん。といっても壊したわけじゃない。始めから中を調べたら後は戻す気でいたんだ」すごく正当なことをしたかのように話す。
「それって……担任の先生に見つからなかったの?」
「見つかったよ、他の生徒が呼んで来てたからね。だけど教師たちが慌ててやってきたころには、パソコンはもとに戻っていた。だけど怒られたよ。なんで怒られたのかは、未だにわからないけど」
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