夜の喫茶店

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 表通りを、手と手が触れるか触れないかの距離で歩いた。  チェーン展開しているハンバーガー屋さんを通り過ぎ、交差点を渡り、大型のショッピングモールの方へ向かう。渡ったら、トルコのおじさんがやっているケバブ屋さんと台車のクレープ屋さんの間の道を左に曲がり、その小道を五分も歩いているとその店はある、はず。  まきちゃんの喫茶店はツタが絡まる一軒家。まるで森の中隠れている小人の家みたいでかわいい。ちょっとメルヘンチックね。木の枝で”WELCOME”の文字が作られ、リスやクマの置物が迎えてくれる。 「良かった、」水樹先生がわたしを見た。そうだ、伝えておかなきゃ。 「先に言っておくと、まきちゃんは男性が好きな男性だから、狙われないように気をつけてね」 「男性が好きな男性?」先生は意味を分かっていなかったけど、会えばわかるだろうとわたしはドアを開けた。    中に入るとまきちゃんはお客さんのお会計をしていた。会計を済ませたカップルはわたしたちと入れ違いに出て行く。まきちゃんは彼らを見送るためにドアまで来ると、私たちに気が付いた。 「あーら、ユリちゃん、いらっしゃい! どしたのこんな時間に…ってなによ彼! いい男じゃない!!」  わたしがいつもより大分遅い時間に来たから不思議がったけれど、そんな疑問は水樹先生を見たらすっ飛んでいったらしい。先生は硬直した。 「やだぁ?先に一言連絡してくれたら、もっとちゃんとお化粧しておいたのに。あ、カウンター座って待ってて、いまおいしーいコーヒー入れちゃうから。ホットでいい?」  水樹先生は面をくらっていたけど、わたしの勘が正しければ先生はこういうのを気にしない人だ。彼はわたしと並んで椅子にかける前に『理解した』と耳打ちしてきた。
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