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「きみが思っている以上に出来ないぞ」
「大丈夫よ、難しいもの作らないし」
いまわたしは家の近所のスーパー、そして先生も彼の自宅近くのスーパーに来ている。互いに家で電話で話していて、わたしがそろそろ買い物に行かなくちゃと言ったら、彼が”僕は出前でも頼むか”と呟いた。
いつも何を食べているのかと聞くと、朝はパンで昼は学食、夜と土日の昼は外食かテイクアウトか出前だと言う。外食ばかりだから身体に悪いとは言わないけれど、ちょっとくらい自炊をしたっていいはずだ。だから電話越しに彼をスーパーへ追いやった。
スーパーに到着した先生は作る前、さらには買い出す前から不安そうだ。
「初めての料理って言ったらカレーよね」
「カレーは食べたいが……」
でも包丁に不慣れな先生は、ジャガイモや人参で悪戦苦闘しそう。
そうだ、キーマカレーにしよう。ひき肉になすとトマトを入れて。茄子とトマトなら皮むきいらずに簡単に切れるし、玉ねぎはペーストでいいや。
「先生、レシピ決定。まずは野菜コーナーに行ってください」
「了解した」
それからは事細かに先生に指示を送った。
「茄子は何本だ?」
「普通のサイズなら一本、小さかったら二本で」
「トマトは大きいから一つか?」
「そうね、ひとつでいいわ」
今晩の次はいつ料理するかわからないから、使い切る量がいい。
またしばらくして、
「ひき肉は何グラムだ?」
「120?150gの間で探してくれる?赤身が多いのがいいわ」
「138gがある……赤い」
「それをお願い」
こんなやり取りを繰り返す。
あとはキーマカレーのルーか。本当はにんにくや生姜も入れたいところだけど、ちょっと高めのルーを買ってもらえばまかなえるわね。同じ売り場に玉ねぎペーストも売っているでしょう。
「これだけで出来るのか?」
レジに並びながら、水樹先生がわたしに問う。いまは一人分で売ってあるものが多いから、極端に量が少なく見えるのだろう。
「お家にフライパンと包丁ある?」
「フライパンと包丁なら、ある」
「まな板と木べらある?」
「道具系もある」
「ならできるわよ。あ、忘れてた、油は?」
「貰い物のオリーブオイルで良ければ」
「それで問題なし。トマトが入るから相性がいいわ」
わたしも自分の買い物を済ませて家に戻った。
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