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「切れた」
しばらくすると、彼の声が聞えた。声の音量がときどき変わるから、先生も向こう側でスピーカーにしているのだろう。
「じゃあフライパンを中火にして、オリーブオイルを大さじ1杯……えーと15mlくらい注いでください。そしたらひき肉と玉ねぎペーストを入れて木べらで炒めてね」
「了解した」
電話越しにぱちぱちとフライパンの音がする。先生は”中火”がわかったかしら。
「でも調理時間を僕に合わせていたら、きみは大分暇じゃないのか」
先生が炒めている音がする。
「同じくらいかかるわ、カレー粉でルーから作っているもの」
「……僕もきみのが食べたい」
わたしは彼の子どもみたいな発言に笑った。そして今度お弁当にしてなにか作って行くからとなだめると、なら頑張るという返事がかえって来た。
「できた」
「味見してみたら?」
先生はあの後もいくつか面白い質問をしてくれたが、なんとか出来上がったみたい。電話越しにスプーンの金属音が鳴る。
「カレーだ……」
「ふふふ、カレー作ったもの」
「できるもんだな……ちょっと嬉しいぞ」
「お疲れ様でした」
わたしは天才プログラマーの初料理を見届け……聞き届けて、自分のキーマカレーを味見した。そして次は作ってあげようとこっそり心に決めた。
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