ダイヤモンドと塩ときみ

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 もう幸せすぎる。 「「乾杯」」  わたしは地獄みたいな最後の数週間を切り抜け、本日ようやく卒論を提出し終えた。もうこれで執筆中に睡魔負けて机に額をおもいっきりぶつけなくて済むし、睡眠不足とコーヒー過多による肌荒れに悩まされなれずにも済む。授業もないし、あとは悠々自適に卒業式に着る袴でも選びながら過ごせばいいだけだ。  そしてちょうど水樹先生も”リリー”に関する報告書の作成や学会のラッシュが終わり一段落ついたところだった。互いに睡眠不足ではあったけれど、せっかくだからと居酒屋さんで一杯だけ飲んで行くことにした。先生に会いたかったし。  店に入ってすぐは執筆したものについて報告し合った。 「はい、べっぴんさん」  こぢんまりとした居酒屋の店主が、前におつまみを置いてくれた。わたしはどれもとても美味しいですと伝えた。 「嬉しいこと言ってくれるね? あ、水樹先生もそりゃあかっこいいけど、オレだってなかなか男前だろう?」  店主はにこにこしながらそう言って、”昔はモテてたんだ”というお決まりの台詞を加えた。  『半年前に来たお客さんにショーン・コネリーに似ていると言われてからずっとあんな調子なんです』と、店主が前を離れた時にバイトの子が教えてくれた。それを聞いてわたしは心の中で店主をショーン・コネリーと評した人を誉め称えた。禿げているのにかっこいい人なんてそう浮かぶものじゃない。
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